前回も書きましたが、
職人さんがみんな怒って帰ってしまったり‥‥。
それ以外にも、
住宅の位置を間違えて、
50センチほどずれた状態で基礎を作ってしまったり、
床暖房を設置しなければいけない事をど忘れして、
家が完成してから気が付いたり‥‥。
思い起こせば、失敗は数えきれません。
そんなさなか、一級建築士が私の上司として迎え入れられました。
やっと、ド素人の私一人が
悪戦苦闘する日々も終わりかなと、安堵したのでした。
彼は、私によく言いました。
「難しい交渉事があれば、俺に任せろ!」
‥‥それは頼もしい。
そして、実際に難しい交渉に迫られた時の事です。
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その現場の奥には神社あり、
神社の敷地は小高い山になっていました。
プランを作成するために、現場を調査しに行ったところ、
突然、雨が降り出したのです。
すると、神社の山に降った雨が集まってきて、
現場の上を川のように流れているではありませんか。
この水をなんとかしない事には、
とてもここに家を建てる事はできません。
水を処理するためには、
現場の奥に大きめの溝を作り、そこに水が集まるようにして、
集めた水は、現場の地中にパイプを通して、
表の道路の側溝に流すようにしなければなりません。
その工事をするのに必要な費用は60万円。
この現場のお施主さんにしてみれば、
「なんで、他人の敷地の雨水なのに
自分の敷地の下を通してあげなければならないのか?
しかも費用を出すなんて、とんでもない。」
神社の宮司に話をしに行くと、
「費用を負担しろと言われても‥‥。
氏子の総代さんに相談してくれ」
との事でした。
総代さんのところに行くと、
「大昔からそういう状況なのに、
今ごろになって、後からやってきた人が家を建てるからといって、
突然、費用の負担を求められるのは、納得がいかない」
‥‥と追い返されました。
八方ふさがりです。
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そこで、上司に相談したのですが、
「お前が何とかしろ!」
えっ?‥‥いつも言っていたあの言葉はなんだったの?
仕方なく、この難しい交渉を私がする事に‥‥。
どうするか‥‥。
まずは、神社の宮司と総代さんの気持ちを解すことが必要です。
そこで、上手くいくかどうか分かりませんでしたが、
ある作戦に出ました。
その作戦とは‥‥。
当時、8歳と4歳だった私の子供たちを利用したのです。
休日に子供たちを、その神社に連れ出したのです。
神社に着いて30分ほどすると、
やりました! 奥から宮司さんが出てきました。
「いや~、いつもどうも、
今日は休みなんで、子守をしてます。」
‥‥と言う具合に、休日の2児のパパを演出したのでした。
すると、宮司さんは
子供たちが無邪気に遊んでいる姿を見て、
目を細めているではありませんか!
そして、子供の話しで盛り上がりました。
まずは第一次作戦成功。
次は、子供たちを連れて、
神社の近くにある総代さんの家の前を、ウロウロ、ウロウロ。
総代さんが家の中にいるのは分かりました。
私は心の中で強く念じました。
「総代さん、頼むから外に出てきてくれ‥‥!」
‥‥するとどうでしょう。
念が通じたのか、総代さんが外に出てきたのです。
そして、宮司さんの時と同じように、
「いや~、いつもどうも、
今日は休みなんで、子守をしてます。」
第二次作戦も大成功でした。
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次の日、お施主さんのところに行き、
「実は昨日、休みだったんで子守をしていましたら、
偶然にも宮司さんと総代さんに会いまして‥‥」
と、宮司さんと総代さんの人となりを話したのでした。
お施主さんも、宮司さんや総代さんに心を開き始めたのを感じました。
チョッとせこかったですが、こんな伏線を引いて
再度、3者へ交渉に向かいました。
するとどうでしょう。
これまでの状況が、嘘のよう‥‥。
3者に20万円ずつ負担してもらい、工事をさせてもらう事に‥‥。
本当に嬉しかったです。
こうして、苦労して何とか丸く収めましたが、
社長や上司の評価は、
「そんな事はできて当たり前」
これ以外にも、難しい状況が何度もありましたが、
その度に、それをなんとかするのは私の仕事。
いつか、この会社を止めてやろう‥‥
そんな思いが強くなっていくのでした。
この続きは、また後日。